「犬吉猫吉」2002.9月号掲載

ペットの腎臓移植知っていますか?
腎臓移植というと、人間の場合でも、腎臓バンクなどができてはいるものの、提供される腎臓が少なく、移植のむずかしさを良く耳にします。ペットに目を向けると高齢化に伴い、猫を中心に、腎臓病が急増し、移植以外に命を助けられないペットたちが増える一方です。そんな中、犬猫の腎臓移植で世界的権威であるカリフォルニア大学の獣医学外科学教授のクラーク・グレゴリ-教授の発表を中心としたペットの腎臓移植をテーマにした市民フォーラムが栃木県大田原市で開催されました。

アメリカでは年間百例以上のペットの腎臓移植が行われている
 日本では、犬猫の腎臓移植は、大学の研究室の中では、行われていますが、動物病院で実際に治療されてはいません。ペットの医療の先進国であるアメリカでは、1980年代から研究が始まり、1987年目に治療として、最初の猫の腎臓移植が行われたのを初めとして、カリフォルニア大学デイビッド校だけでも、年間数十例。全米では、大学の動物病院を中心に数百の腎臓移植手術が行われています。

ペットは透析ができない
 ふだん獣医師さんは犬や猫の飼い主さんに、塩分の取りすぎは注意するように指導していると思います。これは、人間のおいしいと思う塩味を犬や猫に与えると、塩分が多すぎて、腎臓に負担をかけるからです。
 腎臓の働きは、大きくは、
身体の中にある過剰に取られたり、害のある物質を尿として外に出す働き
水分量の調節
赤血球を作るホルモンやカルシウムを調整する機能
があります。特に尿として外に出す作用は大事で、腎臓が悪くなると、身体の中に害のある物質が溜まってしまうということになります。
 こうなると中毒状態を起こし、死ににいたってしまいます。
 腎臓の働きが悪くなる原因としては、
高齢により腎臓の働きが急激に低下する
腎炎などの病気で、腎臓の働きが低下する
交通事故などで腎臓や組織が破壊されて機能が低下する
などがあります。
 人間の場合、腎臓が悪くなると軽症の場合は、投薬と塩分を中心とした食事制限、重症になると人工透析をすることになり、より重症になると移植を行っています。
 犬猫の場合は、軽症は同じですが、重症になると腹膜透析という方法で透析をしますが、人間と違っておとなしくできないので、麻酔をかけるなどのリスクがかかってしまいます。
 人工透析は、動かず5時間以上かかるのでですから犬や猫に適応することは、可能性は今のところないと言われています。
 ですから重症になると、投薬と食餌制限と対処療法をするしかないのが現状です。
 手術の技術面においては、人間の腎臓移植をするために犬や猫で実験した上で行われているので、日本でもこれまで研究を続けている獣医師たちが、実際に移植するのは可能な状態ではあります。

ドナー(提供者)の犬や猫はどうするのか!?
 移植というのは、犬猫の腎臓を他の犬猫からもらって移植するということになります。
 ドナー(供給する犬猫)とレピシエント(移植される犬猫)がいるわけです。
 ドナーの犬猫は移植することにより、2つある腎臓が1つになるというリスクを抱えることになります。
 カリフォルニア大学の腎臓移植の場合、腎臓移植を望む飼い主には、必ずドナーの犬や猫を自宅で終生かわいがり飼いつづけることができることを手術をする最低条件としています。
 これまで、知り合いの猫や同じ家で飼われている猫からの移植も試みようとしていますが、提供する側の犬や猫の健康状態や腎臓の状態がよくないと、移植することができません。
 現在は、大学病院で実験動物として健康管理された犬や猫をドナーにすることがほとんどです。
 クラーク先生の教室では、実験動物として一生終わる犬や猫が、ドナーになることで、家庭の中で幸せに生きていけるというポジティブな考え方で移植手術をとらえています。

様々な死生観、人生観がある。
 クラーク先生たちの考え方に対し、別の考え方を持つ医療関係学者もいます。
ドナーにも1つの腎臓しかない状態を作り出すことで、腎臓病予備軍を作ってまで、犬や猫で移植が必要なのかどうか。
高齢になって腎臓病になって移植が必要となった場合、手術そのものがリスクを抱えるものであること。
移植後は、拒絶反応を防ぐため、移植された側の犬や猫は、一生拒絶反応を抑制する薬を投与しなければいけないし、2匹のペットの健康管理の経済的負担をどうするのか。
技術的にできるからといって、高度医療を推進しつづけることへの疑問
など様々です。

飼い主にも 複雑な気持ち
 市民フォーラムの後半は、クラーク教授、臨床獣医、移植学者、飼い主の方たちが、パネルディスカッションで移植に関する疑問、問題点が浮き彫りになっていきました。そのほとんどが、学者の中でも問題になっているドナーの問題です。
 他には、人間だと患者に手術のリスクなどを理解させ同意を得ますが、ペットたちは、何も理解できないまま、手術されてしまう。
 どうにもならないことだけど、ペットの立場で考えるという部分がなさ過ぎるのではないかという意見もでました。
 まだ日本でのペットの移植は、夜明け前の段階です。この時期によく医療関係者、飼い主など様々な人々が、移植について話合う時間が必要なのだと切実に感じました。
 日本で最先端の生体間移植をされている自治医科大学医学部臓器置換研究部の小林教授が言われた言葉が、ピーンと張り詰めた会場の雰囲気を希望のある未来に変えてくれました。その言葉とは「ドナーとレシピエントのことは結論の出ない問題です。
 現在の医学は、最終的治療法ともいえる「移植」から悪くなった臓器などを再生させる「再生医療」、病気にならないための「予防医学」に力を入れ始めており、成果も見られています」と小林教授。
 そして最後に「医療従事者はどうしてもより高度医療を実施したくなる傾向にあります。でも本当にそれが必要なのかどうかも常に検証しながら進まなければいけない」という言葉でしめくくってくださいました。
(「犬吉猫吉」2002.7月号)
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